第4回

その「栓」は、ワインの未来を左右する

ワイン造りの最後に選ばれるもの

今回は、ワイン造りの最後の最後に選ばれる、ひとつの「仕上げ」について考えてみたいと思います。
それは、ボトルの栓です。
一見すると些細なことに思えるかもしれません。
しかし、どの栓を選ぶのかは、そのワインがボトルの中でどのように変化し、私たちが将来どのような状態で味わうことになるのかを左右する重要な選択です。
ワインボトルの栓には、さまざまな種類があります。
・天然コルク
・ガラス栓
・王冠(ビール瓶などに使われるタイプ)
・スクリューキャップ
・合成コルク
それぞれに特徴があり、造り手はワインのスタイルや目的に応じて選択しています。

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天然コルクか、合成コルクか

多くの造り手にとって、栓を選ぶうえで無視できないのがコストです。
特に高品質な天然コルクは、合成コルクなどと比べてコストが高くなることがあります。
生産本数が多くなれば、栓のわずかな価格差もワイナリーにとっては大きな違いになります。

そのため近年では、天然コルクに代えて合成コルクを採用する生産者も珍しくありません。
それは決して手頃なワインだけの話ではなく、名の知られた生産者にも見られる選択です。

ただし、本当に重要なのは「天然か合成か」という違いだけではありません。
その栓が、どのようなワインのために造られているのかを見る必要があります。

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「DIAM」という選択肢

代表的な存在のひとつが、DIAM(ディアム)です。
DIAMは、天然コルクを細かく砕き、ワインの香味に悪影響を与える可能性のある成分などを取り除いたうえで、再成型して造られるタイプのコルクです。

興味深いのは、ひと口にDIAMといっても、すべてが同じ性能ではないことです。

長期熟成を想定したものもあれば、比較的早く飲まれるワインを想定したものもあり、酸素を通す量などにも違いがあります。
すぐに楽しむワインと、10年、20年と熟成させることを想定したワインでは、栓に求められる役割も当然異なります。

つまり、栓を見るときには、そのワインをどれくらいの時間守り、どのように熟成させるために選ばれたものなのかまで考えてみる必要があるのです。

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栓を決めるのは「価格」なのか

私自身は、どの栓を使うかという判断は、コストだけで決めるべきものではないと考えています。
重要なのは、むしろ造り手がどのようなワインを造ろうとしているのかです。


どんなスタイルのワインを目指しているのか。
長期熟成させるワインなのか、早く楽しむためのワインなのか。
テロワールを表現するワインなのか、ブドウ品種の個性を楽しむワインなのか。

そこから逆算して、最も適した栓を選ぶ。
どれかひとつだけが正解というわけではありません。
ワインによって、選択すべき答えは変わります。

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ブルゴーニュのグラン・クリュにも合成コルク?

ただし、個人的にはどうしても想像しにくい組み合わせがあります。
例えば、ブルゴーニュのグラン・クリュ(特級畑)のワインに、合成コルクが使われている光景です。

偉大なワインは、瓶詰めされた瞬間に完成するわけではありません。
セラーの中で10年、20年、時にはそれ以上の歳月を過ごし、ゆっくりと変化していきます。

天然コルクを介したごくわずかな酸素との接触。
その繊細で緩やかな時間の積み重ねによって、若い頃にはなかった香りや複雑さが生まれていく。
私にとって、それもまた偉大なワインが持つ「魔法」の一部なのです。

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しかし、天然コルクにも「魔物」がいる

もちろん、天然コルクが完璧なわけではありません。
ワインを愛する人なら、一度は経験したことがあるかもしれません。
特別な日のために取っておいた1本。
長い間セラーで眠らせ、期待を込めて抜栓する。
ところがグラスから立ち上がってくるのは、期待していた芳香ではなく、湿った段ボールやカビを思わせるような香り――。

いわゆる「ブショネ(コルク臭)」です。

どれほど偉大なワインであっても、ブショネしてしまえば、その魅力を十分に味わうことはできません。

何年も待ち続けた時間さえ、一瞬にして失われてしまう。
天然コルクがもたらす熟成の魅力と、天然素材だからこそ抱えるリスク。

そこには、なんとも皮肉な関係があります。

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栓を見れば、そのワインの未来が見える

私たちはワインを選ぶとき、産地や生産者、ヴィンテージ、ブドウ品種には注意を払います。
しかし、そのボトルを閉じている小さな栓について考えることは、それほど多くありません。
けれど、次にワインを開けるときには、抜いたコルクを少しだけ眺めてみてください。

天然コルクなのか。
合成コルクなのか。

そこには、造り手がそのワインを「いつ、どのように飲んでほしいと考えているのか」という思想の一端が隠れているかもしれません。

たった数センチの小さな栓。
その向こう側には、ワインがこれから歩む何年、何十年もの時間があるのです。

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ヴァンサン・ガルダリン

この記事の執筆者

ミシュラン1ツ星レストラン「Origines(オリジン)」 チーフソムリエ
ヴァンサン・ガルダリン
Vincent Gardarin

数々のミシュラン星付きレストランで研鑽を積み、やがてフランス最高峰のホテル格付け“パラス”を冠するパリ8区の名門、ホテル・ル・ブリストル内 三ツ星レストラン Epicure(エピキュール)においてトップ・ソムリエを務めた人物──それがヴァンサン・ガルダリン氏である。
若くして頭角を現し、類い稀なテイスティング能力と研ぎ澄まされた分析眼を武器に、ヨーロッパの星付きレストラン界で確固たる地位を築いた。
現在は生まれ故郷クレルモン=フェランに戻り、フランスM6テレビの人気番組「トップ・シェフ」でセミ・ファイナリストとなったアドリアン・デスクール(Adrien Descouls)氏が2018年に開いたミシュラン1ツ星レストラン「Origines(オリジン)」のチーフソムリエとして、日々その研鑽を更新し続けている。